どんなに支援制度が充実していても
使える環境でなければ意味がない
- 「働き方改革」の一環として、「仕事と介護の両立支援」が注目され、様々な取り組みが各企業で行われています。
今回取材した大手運輸会社(以下、A社)では、特に「職場の環境づくり」に力を入れているとのこと。その具体的な取り組みや、A社が目指す理想の職場について伺いました。
■「カムバック制度」など8つの仕組みで両立を支援
―貴社では仕事と介護の両立支援に向けてどのような取り組みをされていますか。
A:弊社ではカムバック制度をはじめとした8つの両立支援制度を設けています。また、セミナー等を通じて制度の周知活動にも取り組んでいます。
―充実した内容ですね。
A:これらの制度は、「介護しなければならなくなった人に、速やかに手を貸せる職場」の実現を目指したものです。「周りがサポートする」という目線で考えれば、介護する人が1人で取り組むよりも、できることはぐっと広がりますから。
■「Eラーニング」で全社員向けに周知
―周知活動を行っていく中で、新しい動きや気づきはありましたか。
A:例えば、2018年の各部門の総括担当者を対象とした介護セミナーでは、複数の参加者から「セミナーの内容を部門内でも展開したい」という声が上がりました。
―その声をきっかけに、導入された制度があるとお聞きしました。
A:全社員を対象とした「E-ラーニング」を企画しました。これによって全社員に介護についての意識を高めてもらい、チームでサポートできる体制づくりを実現できればと考えています。変化があったとはいえ、育児と比べると介護に対する社内の意識は、まだ低いですから。
■増えた休職制度の利用者
―周知活動によって制度の利用率などに変化はありましたか。
A:数字で言うと、2018年に介護の休職制度を利用した人が4人いました。2010年から2017年の間の平均利用者が2人だったことを思えば、少しは制度の認知が進んだのかもしれません。ちなみに介護の休職制度自体は1995年からありましたが、制度導入から10年余りにわたって利用者ゼロの状態が続いていました。
ただし、まだ「効果があった」と断言できる状態ではありません。介護を両立できる環境づくりのために何ができるか、今後も検討と検証を続けていく必要があります。
■「より多くの社員に介護の理解を深めてもらう」
―今後、目標とする“職場像”をお教えください。
A:とにもかくにも、介護しながらでも働きやすい職場を作ること。そのためには、1人でも多くの社員に介護についての理解を深めてもらう必要があります。
立派な支援制度があったところで、介護への理解や意識が低い職場では、社員は制度を活用することもなく辞めてしまいます。どんなに立派な部屋でも、住みやすさや使いやすさに欠けていると、すぐに引っ越したくなるとの同じです。
―介護については、管理職や人事担当者が理解していれば十分とも思えますが。
A:管理職や人事担当者だけでなく、職場のできる限り多くの人が理解しておくべきと思います。職場の全員が介護について理解していれば、介護する人へのサポートがスムーズに、気兼ねなく行えるからです。そうなれば「親の介護のために休暇を取りたいが、自分が休んだら仕事が止まってしまう…」と悩む人もいなくなります。
- 事例から見る仕事と介護の両立支援
- A社の仕事と介護の両立支援におけるポイントは、従業員に対し、介護を「自分事」だけでなく「フォロー目線」で考えてもらうための情報提供・環境づくりを行っている点です。
介護を「フォロー目線」でも考えることにより職場全体の理解が深まり、従業員が介護に直面した際も休暇が取りやすく、仕事と介護を両立しやすくなることに注目されました。
企業側から多くの従業員に情報提供を行い、介護に理解のある職場づくりを目指すことが仕事と介護の両立支援において大切となります。